📉 日本経済の真実:一人当たりGDP低下の背後にあるもの

あらすじ
日本の2022年の名目国内総生産(GDP)は3位をキープできたものの、一人あたり名目国内総生産(GDP)は3万4064ドルで、主要7カ国(G7)の最下位となり、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中21位となった。
円安の影響もあるが、日本の長期的な成長力の低迷も指摘されている。しかし、本当に日本の経済は停滞しているのだろうか。
2022年の日本のGDPは世界3位
GDP(国内総生産)とは、一定期間に国内で新たに生産された財やサービスの付加価値の総額で、国の経済規模や景気動向を把握する指標となる。内閣府は年に一度の年次推計に加えて、四半期ごとに速報値を発表している。
経済成長率は、GDPの前期や前年からの増加率を指し、増減によって経済が成長したかどうかを判断する。そして、物価変動を考慮しないGDPを「名目GDP」、物価変動を調整したGDPを「実質GDP」と呼んでいる。国別で見ると、2022年の名目GDPではアメリカが世界一で、中国が2位、日本が3位の経済規模となっている。日本は2010年に、急速に経済成長した中国に名目GDPで抜かれる結果になった。
2022年の日本の一人当たりGDPとはOECDで21位
日本の2022年の名目国内総生産(GDP) は4兆2,000億ドルと内閣府が12月25日に明らかにした。これは世界のGDPに占めるシェアが4.2%で、前年比から0.9ポイント減少し、1980年以降の最低記録を樹立。円安が大きく影響し、一人当たりの名目GDPも主要7カ国(G7)で最下位に落ち込んだ。
世界の名目GDP全体は101兆4,000億ドルで、25兆4,000億ドルを誇るアメリカがトップで、世界全体の25.1%を占めている。中国が17兆9,000億ドルで17.7%のシェアを持ち、日本は3位にランクインした。
しかし、日本の一人当たりの名目GDPは3万4,064ドルで、経済協力開発機構(OECD)の38カ国中21位だった。イタリアにランクを奪われ、前年の20位から順位を下げ、14年ぶりにG7で最下位となっている。一方、1位のルクセンブルクは12万4,592ドルで、日本の3.6倍の差がある。また、5位のアメリカは7万6,291ドルで、日本の2倍以上の差をつけられている。
日本はOECDの中で2番目のGDPを誇り、2番目に多い人口を持つ先進国である。人口が多ければ当然、国の経済力も大きくなる。しかし、現在の経済の停滞と人口減少が進むと、私たち労働者や消費者の存在感が薄れ、困難に直面するかもしれない。
日本がこれからどのような経済を目指すべきか、数十年後も続く人口減少時代において私たちの生活や働き方の価値を高めることが重要である。そのためには、一人ひとりの指標に目を向け、1人当たりの労働や生活の価値を向上させる必要があるだろう。
GDPと為替の関係
為替レートの変動は多種多様な要素により影響を受けるが、各通貨ペアの一人当たりGDPと為替レートの間に、一定の相関性が見られる。
各国の総力を反映する為替レートは、一人当たりGDPと共に動く傾向がある。国のパワーを示す指標には、経済規模が関係するからだ。しかし、国力はGDPだけで評価されるものではなく、貿易収支や金利差など、さまざまな要素が複雑に絡み合い、為替レートを左右すると考えられている。
GDPと株価の関係
GDPの成長率が前期と比べて上昇すれば、それは経済の拡大を示し、株式市場にとって有利な材料になる。しかし、成長率がマイナスに転じると、それは不利な要素となる。ただし、株価は経済状況の先見の明を反映するものなので、GDPがマイナスでも、将来的なGDPの回復への期待から株価が上昇する場合もある。
バブル経済の崩壊とそれに続く長期の低成長で、日本の名目GDPは1990年代後半から2010年代初頭にかけて停滞した。この結果、株価は4万円近いピークから1万円を大きく下回る水準まで落ち込んだのだ。
この期間中、日本の実質GDP成長率はプラスを維持していた。しかし、デフレの影響で名目GDPが伸びなかったため、株価は上昇せず、長期にわたって低迷を強いられたのである。この事実は、名目GDPが増加しないデフレ状態では、株価が長期にわたって停滞する可能性があるということを示唆している。
そのため、名目GDPが拡大傾向にある今、2024年になって日経平均が35000円台を回復し、バブル後の高値を更新したことは理解しやすいだろう。
本当に日本経済は停滞しているのか
GDPは我々一人ひとりの生活を反映する鏡であり、人口の影響を受ける。そのため、平均的な豊かさを測定するためには、「一人当たりGDP」が有効な指標となる。IMFのデータによれば、2022年の日本の一人当たりGDPはOECDの中で21位であり、その数値はGDPの順位とは大きく異なっている。この数字は、日本の人口の多さがGDPを高める要因となっているのかもしれない。
しかし、一人当たりGDPのランキング上位には、ルクセンブルクやシンガポールなどの人口が少ない国が目立つので、小国特有の要素が関与している可能性がある。一人あたりGDP1位のルクセンブルクは神奈川県と同じぐらいの大きさで、人口は約60万人しかいない。その視点から捉えると、日本は世界第3位という位置づけには疑問があるかもしれないが、依然として世界トップクラスの豊かさを保持している国といえるだろう。
投資の世界では「人口減少の早い日本への投資は避けるべき」という考え方が見受けられる。これは、人口増加が経済成長や株価上昇の原動力となるとの見解が一般的だからである。しかし、株式投資の真髄は1株あたりの利益にあり、全体的な視点からは「一人当たりのGDP」を重要視すべきである。したがって、人口の増減に着目することで投資結果を予測する必要はない。
世界の人口増加速度が鈍化し、人口減少が予想以上に早く訪れると仮定すると、投資の焦点は適切な政策の遂行と企業の収益力に移るべきである。具体的には、政治的不安定性が高い新興国であるトルコの政策が安定化するか、収益を優先せずに設備投資を控え、内部留保を膨張させている日本の企業が収益力を発揮するための投資を増やすかなどが注目点となる。
直近の円安によるドル建てGDPの低下について嘆く人々は、10年前の状況を懐かしんでいるのかもしれない。2012年の日本の一人当たり名目GDPは、ドル建てで約4.6万ドルであり、3年連続で過去最高となり、OECDの中でも第10位だった。
しかしこれは、当時の1ドル=80円近辺の超円高のために、日本のGDPがドル換算で高く見えた結果に過ぎない。政府・日銀が超円高政策を放置したことが、産業の空洞化とデフレの深刻化を招いたと考えられる。
円建ての名目GDPは順調に回復し、2021年度には+2.7%の553.6兆円、2022年度には+2.3%の566兆円となっている。日本経済は明らかに停滞から脱しつつあると考えてもいいのではないか。
このシリーズはNewsweekやForbesなどの掲載経験、
加えて日経CNBCにアナリストとしての出演経験を持つ
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