トランプ再選と世界経済への影響🌐

「ドナルド・トランプの再選」が世界経済へもたらす影響を分析する
アメリカ・イズ・ナンバーワン!この声が国を託すリーダーとして再び待ち望んでいるものなのか、それとも過剰な自国主義論者の再登場か。2024年1月にアイオワ州で行われた共和党予備選挙にて圧勝した前大統領のドナルド・トランプ氏を見て、立場や考え方から人々はさまざまな感想を持ったことでしょう。今後もほかの州の予備選挙でも勝ち続け、共和党の候補となった折には現職のバイデン大統領と対等の勝負をするのではといわれています。
我々は十分に可能性がある「ドナルド・トランプの再選」と、政権奪取がもたらす世界経済への影響について、どのように備えていけばいいのでしょうか。
(主役)
【ドナルド・トランプ前大統領】アメリカ前大統領。自国主義を標榜し、2021年までアメリカ国家を牽引した。最新の大統領選で現職のバイデン大統領に敗れ、また複数の訴訟を抱えるも熱量は健在で、2024年秋の大統領選で再当選を目指す。自国主義寄りの考え方を持つ国民はもちろん、移民反対派や中下層の所得層に支持者が多い。
【ジョー・バイデン現大統領】現職のアメリカ大統領。2024年の大統領選挙に民主党から出馬が確実視されているが、支持率は低迷している。また81歳という高齢もリスクと見られている。
【ジェローム・パウエル】現アメリカ連邦制度準備理事会(FRB)議長。2017年にトランプ大統領により任命。頻繁なアメリカの利上げと利下げを主導してきた。在任期間は2026年まで。
(あらすじ)
〇トランプ大統領が再任されたら世界経済はどのような影響があるか
〇日本に考えられる影響は
〇トランプ再登板に備え我々は何をすればいいのか
トランプ大統領が再任されたら世界経済はどのような影響があるか
外交面においてはトランプ氏の掲げる「アメリカ・イズ・ナンバーワン」は推進されることが考えられます。予備選の行われたアイオワ州においても、投票権を持った共和党員の最大の懸念は移民問題でした。メキシコとの国境に近い州であればともかく、五大湖に近いアイオワ州で移民問題が再懸念課題になるとは意外です。そのあとに経済・生活復興が続きます。トランプ氏退任後に発生したロシアとウクライナの戦争、イスラエルのガザ進軍に対する対応、そして中国やここ数年で政治的な存在感を増しているインド・グローバルサウス諸国に関しても、現民主党政権の方針からは転換することが考えられます。
懸念されるトランプ大統領のFRBへの介入
経済面ではどうでしょうか。基本的にアメリカの経済はアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が主導しています。ただ前任時にトランプ大統領はFRB理事長であるジェローム・パウエル氏に対し、継続していた利上げ策を不要という見解を示し、FRBへの批判を強めていくことになりました。2024年現在、FRBによる利上げと利下げのタイミングにはアメリカ国内に加え、世界中の投資家からも厳しい目を向けられることが多いです。
政策金利は国内景気にも直結するほか、日本も含めた周辺国とのあいだに駆け引きが生じるため、「トランプ氏の激しい部分」の格好の標的になるでしょう。実際に前任時、トランプ大統領はアメリカ経済の成長鈍化や政府債務残高の増加の一端をFRBに向けるような言説が徐々に強まっていきました。
当時FRBはこれを受け、利上げ寄りの経済政策を中和的に転換しました。そう考えると今回もし2期目のトランプ大統領が就任するとして、就任式以後の2025年1月からFRBへの介入が再開されるのでしょうか。これがトランプ就任における世界経済への影響として、最初の大きな論点です。
誤解を招かないように補足すると、トランプ以外の歴代大統領もFRBの進める経済政策に対し介入の姿勢を見せることはあります。現任のバイデン政権もコメントをすることが多いですが、トランプほど過激ではないため、アメリカメディアには黙認されている傾向は否定できません。
そして、仮にトランプが就任している時点で日本が現行のような大規模な金融緩和を続けているとすると、トランプ氏の厳しい刃は日本銀行、および日本政府に向かうことは容易に想像できるものです。
2期目のトランプはハレーションに配慮か暴走か
対称的な見方もあります。2021年までの1期目と、大統領離任後の2022年中間選挙はトランプ氏が支援した候補は相次いで落選するなど、反動が広がりました。テレビ司会者とビジネスマンとしての印象から様子見だった人のなかにも、はっきりと同氏に対し嫌悪感を示す声も多くなっています。まとめるならば、トランプアレルギーの影響です。さまざまな意味で、特に大統領退任後のトランプ氏は暴れ過ぎました。あの温度感には、経済界も様子見というわけにはいきません。
2021年までトランプ政権を副大統領として支えたマイク・ペンス氏にしても、2024年の次期大統領選は「礼節を持った人物を望む」とし、暗にトランプ氏を批判しています。また1期目の政権時には、高官の離職率がこれまでで最も高かったとも報じられています。
仮に再選となったとしても、本人が引き続き訴訟を抱えていることもあり、刺激的な発言は変わらないと予想する向きもあります。大統領権限を使った過剰な権限濫用は控えるのではないでしょうか。また、財務長官や商務長官にキャラクターの立つ人間を任命し、またX(旧Twitter)での刺激的な発言でカモフラージュしながら、実際は水面下で緻密な交渉を進めていく印象があります。さまざまなキャリアを有している同氏ですが、根底はテレビタレントではなく、ビジネスマンなのでしょう。
再選の可能性が無いことがどう影響するか
その予測に対しても異なる見方もあります。2024年の選挙に当選するとトランプ氏は2期目となり、次々回の選挙で3期目となる可能性はありません。元来共和党の上院もしくは下院議員で、政治的影響力を重視する党内の重鎮であればともかく、トランプ氏は決して政党人とはいえないキャリアです。2028年の大統領退任後に、アメリカ政界での影響力に誇示する印象はありません。
その視点から考えると、より自説にもとづいた経済政策を推進するのではとの見方もあります。日本との関係も、この点が大きく影響してくることでしょう。日本からの輸出産業の制限や為替にも次々と目を向けてくることも充分に考えられます。
大統領選で語られる経済政策に注目
まずは2024年11月の本選挙まで長丁場の大統領選に注目していきましょう。共和党の指名争いと、大統領本戦でさまざまな見解が見られるはずです。またトランプ氏の趨勢を受けて、関係者やFRBのパウエル議長からの発言が経済政策の一端を示すことでしょう。このパウエル議長を指名したのは、ほかならぬ大統領直後のトランプ氏でした。
なお、欧州・ユーロ圏20カ国の金融政策を担う欧州中央銀行(ECB)のクリスティーヌ・ラガルド議長はトランプ氏がアイオワ州の予備選で勝利した感想を聞かれ、「ああ、ちょっと一服させて」と述べ、聴衆を笑わせたとブルームバーグが報じました。世界中の関係者のなかでは「まさか」が少しずつ、「あるかもしれない」に変わってきています。そしてトランプ氏が予備選で勝利を重ねるにつれ「どうするトランプ」という昨年NHKでよく耳にしたワードへと変化していくのでしょう。
このシリーズはNewsweekやForbesなどの掲載経験、
加えて日経CNBCにアナリストとしての出演経験を持つ
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